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横浜地方裁判所 昭和43年(わ)644号 判決

本籍及び住居

神奈川県藤沢市辻堂一、五八八番地

店舗賃貸業

和田寅之助

明治四〇年三月二三日生

本店所在地

神奈川県藤沢市辻堂一、五八八番地

株式会社和田商店

右代表者代表取締役

和田寅之助

右被告人らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官仙波敏威出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人和田寅之助を懲役四月に、被告会社株式会社和田商店を罰金一〇〇万円に処する。

被告人和田寅之助に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人和田寅之助及び被告会社株式会社和田商店の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社和田商店(以下単に被告会社という。)は、神奈川県藤沢市辻堂一、五八八番地に本店をおき、同市片瀬、同県茅ケ崎市小和田浜竹及び同市兵金山等に営業所を設け、葬具等の販売貸付及び葬儀に伴う手間仕事を請負う葬儀請負業並に生花販売業などを営む資本金五〇万円の株式会社であり、被告人和田寅之助(以下単に被告人という。)は、被告会社の実質的経営者としてその業務を統轄していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、葬儀請負等の収入の一部を除外し、これを架空名義等の預金口座に入金して簿外預金を設定するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が六七〇万七、〇〇〇円で、これに対する法人税額が二三九万八、六〇〇円であつたのにかかわらず、昭和四〇年五月三一日神奈川県藤沢市鵠沼二、一六八番地所在所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、右所得金額が一一万五、一〇〇円でこれに対する法人税額が三万七、九八〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額二三九万八、六〇〇円と右申告税額との差額二三六万六〇〇円(一〇〇円末満切捨)を免れ、

第二  昭和四〇年四月一日より昭和四一年三月三一日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が六七一万四、〇〇〇円で、これに対する法人税額が二三〇万四、一〇〇円であつたのにかかわらず、昭和四一年五月三一日前記藤沢税務署において、同税務署長に対し、右所得金額が五万二、九〇〇円で、これに対する法人税額が一万六、三九〇円である旨虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額二三〇万四、一〇〇円と右申告税額との差額二二八万七、七〇〇円(一〇〇円末満切捨)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  被告人の第一六回、第二〇回公判調書中の各供述部分

一  被告会社代表者(供述当時)和田幸枝の第八回、第九回公判調書中の各供述部分

一  被告人に対する大蔵事務官の昭和四二年四月六日付、同月七日付、同月二二日付、同年五月一日付、同年七月八日付各質問てん末書

一  被告人の検察官に対する昭和四三年五月二日付、同月八日付、同月一六日付(二通)、同月二四日付(一〇枚綴のもの)各供述調書

一  証人和田晃一の第六回、第七回公判調書中の各供述部分及び同人の検察官に対する供述調書三通

一  証人和田幸枝の第一〇回公判調書中の供述部分

一  証人栃元都市及び同塩瀬光雄の第一一回公判調書中の各供述部分

一  証人今井幸男に対する受命裁判官の尋問調書

一  証人菊池邦夫に対する当裁判所の尋問調書及び同人の第一五回及び第一七回公判調書中の各供述部分

判示冒頭の事実につき

一  被告人に対する大蔵事務官の昭和四二年四月二一日付質問てん末書

一  被告人の検察官に対する昭和四三年四月二四日付供述調書

一  金井清子、清野トシ子、大越道子に対する大蔵事務官の各質問てん末書

一  登記官中田友吉作成の昭和四二年六月一二日付登記簿謄本

一  被告人作成の役員名簿及び事務分掌表

判示第一及び第二の事実につき

一  被告人に対する大蔵事務官の昭和四二年四月一〇日付、同月二〇日付、同年五月一八日付、同月二六日付、同月二七日付、同年六月六日付、同月一二日付、同月一三日付、同月二〇日付、同月二一日付、同年七月一七日付各質問てん末書

一  被告人の検察官に対する昭和四三年五月一八日付、同月二〇日付、同月二一日付(三通)、同月二四日付(一九枚綴のもの)各供述調書

一  被告人作成の上申告書五通

一  小泉義雄作成の昭和四二年六月二三日付証明書(記載期間自昭和四〇年二月二四日至昭和四一年一一月二五日の株式会社和田商店普通預金元帳写に関するもの)及び残高証明書

一  川畑治雄(三通)、深沢克己(同年六月二三日付)、青村開作(二通)、小山華(二通)作成の各証明書

一  大木正平、鈴木福三郎、渡辺義雄、佐藤裕康、桜井勉、大林直美、鈴木豊太、鈴木清治作成の各上申書

一  小柳英市、浜永良永、砂川善太郎、砂井広四、裏川陸郎、山田トヨ(写)作成の各回答書

一  大蔵事務官高橋与四郎作成の「銀行等調査書類」と題する書面

一  大蔵事務官川村真作成の「簿外貸付金寄付金調査書」、「什器備品調査書」「車両調査書」と題する各書面

一  大蔵事務官菊池邦夫作成の「支払手形調査書」と題する書面

一  押収してある

1  領金元帳六枚(昭和四五年押第三〇九号の七(二枚)、同号の八、八三、八五、八七)

2  普通預金元帳一枚(同号の九)

3  日掛積金元帳二枚(同号の一二、一三)

4  建物売買契約書二通(同号の二七(添付の領収書一枚を含む)、同号の二九)

5  領収証四通(同号の三〇、三二ないし三四)

6  売却決定通知書及び領収証書等一綴(同号の三一)

7  不動産売買相互契約証書一通(同号の三五)

8  土地売買契約書(添付の領収証を含む)二通(同号の三八、四二)

9  請求複写簿二冊(同号の四九、五〇)

10  領収証控三冊(同号の五一ないし五三)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官川村真作成の脱税額計算書及び法人税額計算書(いずれも昭和三九年度分に関するもの)

一  小宮山悌二作成の証明書、小泉義雄作成の昭和四二年六月二三日付証明書二通(記載期間自昭和三八年三月三一日至昭和四〇年二月二四日の株式会社和田商店普通預金元帳写に関するもの及び記載期間自昭和三八年三月三一日至昭和四〇年二月二四日の和田篤泰普通預金元帳写に関するもの)

一  駒井貢、斉木裕作成の各上申書

一  田中秋友作成の回答書

一  大蔵事務官川村真作成の建物調査書

一  押収してある

1  昭和三九年度法人税確定申告書一綴(添付の第一一期決算報告書を含む。)(昭和四九年押第三〇九号の一)

2  普通預金元帳一枚(同号の一一)

3  入金伝票一綴(同号の四三)

4  定期積金元帳一枚(同号の八二)

5  預金元帳二枚(同号の八四、八六)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官川村真作成の脱税額計算書及び法人税額計算書(いずれも昭和四〇年度分に関するもの)

一  小泉義雄作成の昭和四二年六月二三日付証明書二通(当座預金元帳写に関するもの及び和田造花店普通預金元帳写に関するもの)

一  深沢克己作成の昭和四二年六月二三日付証明書(一)(二)(三) 三通及び残高証明書

一  足達春彦作成の証明書及び残高証明書

一  古川猛治、田野万吉、小西正頼、吉田二郎作成の各上申書

一  相沢亀八、斉院紀代子作成の各回答書

一  大蔵事務官川村真作成の造作調査書及び車両売却損調査書

一  押収してある

1  昭和四〇年度法人税確定申告一綴(添付の第一二期決算報告書を含む)(昭和四九年押第三〇九号の四四)

2  普通預金元帳二枚(同号の一〇、四六)

3  日掛積金元帳二枚(同号の八〇、八一)

4  定期積金元帳一枚(同号の四七)

5  定額郵便貯金支払金内訳書写一枚(同号の四八)

6  請求複写簿三冊(同号の五四ないし五六)

7  領収証控三冊(同号の五七ないし五九)

8  「領収書御送付の件」と題する書面及び領収証二枚(同号の六一、六二)

9  領収証一枚(同号の六三)

10  領収証二枚(同号の六四、六七)

11  不動産売買契約書一通(同号の七〇)

12  大八木不動産の帳簿一冊(同号の七二)

(法令の適用)

被告人につき、被告人の判示第一の所為は昭和四〇年法律第三四号法人税法附則一九条により同法による改正前の法人税法四八条一項に、判示第二の所為は法人税法一五九条一項に各該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

被告会社につき、判示第一の所為は昭和四〇年法律第三四号附則一九条により同法による改正前の法人税法五一条一項、四八条一項に、判示第二の所為は法人税法一六四条一項、一五九条一項に各該当するところ、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金一〇〇万円に処することとする。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告入及び被告会社に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件は、被告会社が当時税務当局から反税団体と目されていた神奈川県民主商工会の有力な一員であつたことから、税務当局において、被告会社に対する重税或は刑事処分による威圧によつて被告会社及びその他の会員を民主商工会から脱会させようと図り、資本金僅か五〇万円の被告会社に対し大規模な一斉査察を実施し、さらに検察官においても民主商工会を弾圧する意図のもとに公訴を提起した事案であつて、本件起訴は集会結社の自由を保障した憲法に違反し、公訴権の濫用であるから、公訴を棄却すべきである、と主張する。

よつて判断するに、すでに判示の如く、本件は二事業年度にわたり逋脱額合計が四六〇万円余に及び、しかも本来申告すべき正規の法人税額に対する逋脱額の割合が著しく大きく、また、その手段も売上金の一部を除外したうえ架空名儀の預金口座に入金して簿外預金を設定するというものであつて、その他本件諸事情を考慮すると不起訴にすべきことが明らかであるとはいえないのみならず、本件公訴提起にあたつて、検察官に、所論のような民主商工会を弾圧する意図があつたと認めるに足りる証拠は存せず、その他本件公訴提起が違法であると認めるべき理由はないので、弁護人の右主張は採用しない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山崎宏八 裁判官 岩城晴義 裁判官 一宮和夫)

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